コラム

悩み事を語っている時間だけがカウンセリングではない
ープレイセラピーにも触れながらー

2024年12月
倉田
カウンセリング場面でお会いする方々の中には、言葉でうまく表現することが得意ではなく、ご不安を抱えていらっしゃる方とお会いすることがあります。言葉で表現することが苦手というだけでなく、まだ全てにおいて成長過程であるお子様や知的障がいをもち、言葉での表出が困難な方々もいらっしゃいます。そうした方々に有用な手段の1つにプレイセラピーという心理療法があります。プレイセラピーでは、 “遊ぶ”という関わりのなかに、自分の問題を表出し、相手に伝えて読みとってもらうことを通して問題を解決し、自分らしさを育ててゆくことができるのです。今回は、プレイセラピーを中心に取り上げながら、悩みごとを語っている時間以外にもカウンセリングにおいて大切な時間があることをご紹介していきたいと思います。

まずはプレイセラピーについてご紹介していきたいと思います。
プレイセラピーとは、言葉では十分に自分の気持ちや考えを表現することが困難なため、遊びや遊具を通して行われる心理療法です。そのため「子どもに対して行われる心理療法とは」と考えた時、セラピストが真っ先に想起しやすい療法でもあります。ただ、お子様と関わることも多い教育相談の現場では「ただ遊んでいるだけで何の意味があるのか」と疑問を持たれる保護者や教職員の方々と出会うこともあります。それは、プレイセラピーに馴染みがない方々からすれば当然の感想であると感じます。

プレイセラピーは言葉だけではなく、“遊ぶ”という関わりを用いた心理療法であるため、ここで架空の事例を用いてお伝えしてみたいと思います。

【Aについて】養育者から放置されて生活し、結果的に施設に一時保護された。施設からでた後も様々な問題で家を転々としてきた。そんなAは、学校でひどいケンカを起こしたり、赤ちゃんのように丸まって寝ていたり、自分のことを「悪魔」と呼んだり…。そんなAへプレイセラピーを導入することとなった。

① プレイセラピーを開始して、1番に手に持ったものは。ダースベイダーだった。次に、剣と拳銃を手にとった。ダースベイダーと闘士を激しく戦わせ、戦車が砲撃してもダースベイダーは死なず、戦車が倒れるまで、蹴ったり激しく殴ったりした。おもちゃの電話を使って家に電話し、赤ちゃん人形にミルクをあげた。部屋を退出する際「先生が退屈してなかったらいいんだけど」と自分を責めるように呟いた。

② その後もAとプレイセラピーを継続。ダースベイダーとの戦いは続いたが、次第に穏やかになり、ダースベイダーがいつも勝つとは限らなくなった。また、箱庭や人形を使って、学校生活や家族関係を遊びで表現されるようになった(箱庭:砂の入った箱の中に人形や家などのアイテムを置き、自身の世界を表現する)。Aが赤ちゃんを演じ、ベッドに入り、「哺乳瓶でミルクを飲ませてほしい」とセラピストに頼む場面も見られた。

①の場面では、Aが抱える、力、強さ、暴力に関する問題、赤ちゃんとしての自分、自分を肯定的に思う気持ちの欠如が遊びの中にみられているように思います。そのような初回での出会いから、複数回重ねていった②の場面では、戦いも穏やかに落ち着いてきたり、より現実場面に即した問題を表現して訴えている様子が見られます。これまでの遊びを通した関わりの中で安心感を抱くことができたからこそ、学校や家庭生活の表現や、赤ちゃんへと退行し、ミルクという愛情と栄養を補給しようとする関わりも見られてきました。 このように、プレイセラピーの中では、単なる遊びに見えて、そこには言葉だけでは表現しきれない思いがたくさんのせられています。そして、その訴えをセラピストも遊びを共有する中で感じ、受け止め、対話していくのです。

実際のカウンセリングの中で、ご相談内容を直接的に扱う時間だけが必要な時間ととらえていらっしゃる方と出会うことがあります。そうした方の中には、プレイセラピー同様「そんなやりとりに意味があるのかな?」と感じる保護者の方や「こんなお話をしていて良いのかな」とご本人も躊躇されていることもあります。ただ、趣味のお話をやりとりすることや「相談というより、ただの愚痴?」と感じられるようなお話の中にも大切な要素がたくさん詰まっているものです。特に今回取り上げたようなお子様はもちろん、言語化することに苦手さを感じていらっしゃる方にとっても、まずご自分にとって話しやすいお話からやりとりしていくことで、安心してお話しやすくなることも多いのです。そうした過程は「自分のことをわかってくれる」というセラピストへの信頼感や安心・安全感を積み重ねる、とても大切な時間です。

ご自身の気持ちを言葉で表現することはとても難しいことと思います。そのような難しさを抱えながらもどうにか伝えようとしてくださっている心の訴えを、私たちは知りたい・受け止めたいと思います。そのやりとりの1つの方法として遊びを用いた心理療法がプレイセラピーとなります。今回はプレイセラピーを中心に取り上げましたが、心理療法の中には今回の架空事例の中にも登場しました箱庭療法やコラージュ療法等の芸術療法など、他にも言葉以外の手段も用いて表現する療法があります。必要に応じてそうした手段もご提案しながら、負担にならない方法を一緒に考えていきますので、どうか安心してご来室頂けたらと思っています。


引用・参考文献

  •  田中千穂子『プレイセラピーへの手びき 関係の綾をどう読みとるか』日本評論社2011
  •  ジャネット・ウエスト著 倉光修監訳 串崎真志・串崎幸代訳『子ども中心プレイセラピー』創元社 2010