コラム

アサーション

2023年10月
津崎

皆さんは、毎日の生活の中で、きつい言い方をしてしまい、「もっと違った言い方あったかも」と思ったことや、相手から非難されたり嫌われたりすることを恐れて「本当はこう思っていたのに伝えられなかったな」と思ったことはないでしょうか。もしくは、自分は素直に言いたいことを表現できていると思っていても、実際は相手の気持ちを考えずに自分勝手になってしまい、後から周囲との関係性が険悪になったり壊れてしまったということはないでしょうか。お互いのことを大切に、尊重しながら、それでも率直に、素直にコミュニケーションが出来たらお互いが気持ちよく過ごせることでしょう。そのようなコミュニケーションをアサーションと言います。

アサーションでは、自己表現のタイプを三つに分けて考えています。
<非主張的自己表現> 自分の気持ちや考えを言わない。曖昧な言い方をしたり、言い訳がましく言ったり、他人に無視されやすいような消極的な態度や小さな声で言うことも含まれます。このような言動をしている時は、相手に譲ってあげているように見えながら、自信がなく、不安が高く、それを隠して卑屈な気持ちになっていることが多いです。

<攻撃的自己表現> 自分の意見や考え、気持ちをはっきり言うことで自己主張はしているものの、相手の言い分や気持ちを無視、または軽視して結果的に相手に自分を押し付ける言動のことを言います。そのため、自分の言い分は通っても、相手の気持ちを害したり、相手を見下したり不必要に支配したりすることになります。

<アサーティブな自己表現> 自分も相手も大切にした自己表現です。自分の気持ち、考え、信念などが正直に、率直に、その場にふさわしい方法で表現され、また相手が同じように表現することを受け入れようとします。その結果として、お互いの意見が葛藤を起こすことも時にはあります。お互いに率直に話をすれば自分の意見に相手が同意しないこともありますし、また、相手の意見に自分が賛同できるとは限らないことも知っています。だから、葛藤が起こった時はすぐさま折れて相手に譲ったり、相手が自分に同意してくれることを期待するのではなく、面倒がらずにお互いの意見を出し合って、譲ったり譲られたりしながら、双方にとって納得のいく結論を出そうとします。

具体例を挙げてみます。
大学生の子供が門限に遅れて夜遅く帰宅したとします。そのことを頭ごなしに怒ったり責めたりするのは<攻撃的自己表現>にあたり、子どもが帰ってきたのを確認してから何も言わずに眠りにつくのは<非主張的自己表現>にあたります。帰宅した時に「心配したよ。」「遅くなるなら連絡してね。」などのように責めるのではなく、こちらの気持ちをしっかり伝えることが<アサーティブな自己表現>になります。
皆さんはどのような反応になりやすいでしょうか。
特定の人や特定の状況でアサーション出来ない人もいれば、どんな人に対しても、どんな状況にあっても全般的に非主張的とか、攻撃的な人もいます。

では、私たちがアサーティブになることが難しいのはなぜでしょう。              
① 気持ちが把握できない。
② 結果や周囲を気にしすぎる。
③ 自分がやりたいことを言うことは人権として許されているということを忘れてしまっている。
④ ものの見方、ものごとの考え方がアサーティブでない。(例えば…物わかりの良い人が好かれる。/大人は子供より偉い。/負けることは良くない。/上司に従うべき。など)
⑤ アサーションのスキルを習得していない。(例えば…頼まれごとをした時に断る方法/人との会話の始め方。など)
⑥ 気持ちの表現の仕方、姿勢、表情、声、服装など、非言語的なものもアサーションには極めて重要な要素であることを理解していない、または気づいていない。
等6つのことが考えられます。

今回は、その中でもスキルについて、とりわけ社交的な場面、人間関係をつくる場面でのアサーションのポイント、日常会話のコツに焦点を当ててみることにします。              
①会話の始め方・会話への加わり方
・挨拶をする              
・自己紹介をする
・相手の名前を呼ぶ
・質問をする              
・自分の意見を言う
・話をする             
質問は自分の関心のあること、訊きたいことが第一、次に相手が得意なこと、興味を持っていることです。また、このような場面では、モジモジしたり、引っ込み思案にならず、身を乗り出して、声を大きめに話し出すことも大切です。             
②会話の続け方             
・話の内容を変える
・話題を変える             
話題を変える時には、「ところで話は変わりますが…」「それはそうと…」「前から話したいと思っていたのですが…」「先日ニュースで見たのですが…」など、「話が変わりますよ」という合図も前置きをすると、相手にとってもスムーズに話題に入っていきやすくなります。
③ 会話の終え方
・「これで失礼」「この後予定がありますので」などの合図で、一旦会話を切る。
・ぶっきらぼうにならないよう、別れの言葉を言う。
・もし、関係を繋いでおきたい時は、その気持ちを言語化する。
・グズグズせず、さっと立ち去る。
相手と別れたくない、関係を繋いでおきたいといった時には「今日は楽しかったので、また会いましょう」「時間がなくて残念ですが…」「またお会いしたいです」など、関係をつなぐ言葉を添えて別れの言葉を言うといいでしょう。

コミュニケーションは人と人との間で起こることなので、勿論自分を表現することだけでなく、相手の言葉に耳を傾けることも大切です。こちらからの働きかけが変化することで相手との関係性にも少なからず変化を及ぼします。お互いのことを尊重しながらも自分の気持ちを素直に表現して、お互いが気持ちよく過ごしていけるようになるといいですよね。

現代は核家族やテレビなどの情報収集のツールが増えたことなどにより、実際の対人場面でこういったスキルを学ぶ場面も減ってきています。もし、あまり得意ではないな、という方の手助けにカウンセリングの場がなればと思います。


<引用・参考文献>
 平木典子(1993) アサーショントレーニング ―さわやかな<自己表現>のために― 金子書房