コラム

良い医者に出会うために

2022年2月
埜崎

仕事柄、多くの人から「メンタルの不調がある、何科に受診すればいいですか?」と相談されることが多いです。主な診療科は精神(神経)科、心療内科です。
 精神(神経)科は精神疾患を専門に扱う科です。わかりやすく言えば心の症状、心の病気を扱う科です。心の症状とは、不安、抑うつ、不眠、イライラ、幻覚、幻聴、妄想などです。医者は主に精神科医です。
 心療内科は食欲不振、吐き気など身体の症状がメインですが、検査をしても異常がない、あるいは、経過からストレスなどが関連していると思われる病気を扱う科です。例えば神経性胃潰瘍や過敏性大腸炎などがこれに該当します。医者は主に内科医です。
 最近は心療内科・精神(神経)科の両方を標榜(ひょうぼう;医療機関が外部に対して告知することのできる科目)する医療機関が増えてきており、2つの違いが小さくなってきていると思います。また、2つの科に似ている診療科名として神経内科があります。神経内科は脳神経系の疾患を取り扱う診療科です。パーキンソン病、ニューロパチーなどの神経の病気を扱う科ですが、精神科と名前が似ているので間違って受診する人がいるため注意をしましょう。
 体のだるさ、頭痛、めまい、食欲不振、耳鳴りなどの体の症状がある場合には、まずは身体の病院(内科、耳鼻科等)に受診して身体的に異常がないことを確認してから精神(神経)科、心療内科に受診をするのが良いでしょう。
 また、「良い医者がいる精神(神経)科を紹介してほしい」と相談されることも多いです。しかしこれはとても難しいことです。
 理由として、「良い医者」が人によって違うことが挙げられます。たとえばじっくり話を聞いてくれる医者が良い人もいれば、多くは聞かないが具体的な指示を出してくれる医者が良いという人、適切な薬を出してくれる医者が良いという人もいます。さらに、いわゆる「相性」もあるので、人によって「良い医者」がそれぞれ違うのです。
 医者に求めるものに多いものとしては

  • 頼もしいカリスマ的な医者
  • 治療経験も人生経験も豊富な温かみのある医者
  • 一緒にいるだけで気持ちが楽になるようなそして気持ちを汲んでくれる話しやすい医者
  • 知性的で病気を治してくれる医者
  • 患者の考えを尊重し、患者の希望に沿って治療を試みてくれる医者

などです。
 まず、通いやすい病院を受診してみましょう。通いやすいとは家や職場から近いとか、診察時間が自分の都合に良いということです。通院が面倒だったり苦痛になるような場所は避けたほうが良いでしょう。
 そして最低でも3回は通院して、少しでも違和感を覚えれば病院を変えます。そして3か所通ってみて一番自分にあった病院に決めていく(妥協する)のが良いでしょう。
 3回は通院することの意味は1回ですべてを理解してもらうのは難しいし、医者との相性を1回で判断するのは早いと思います。回を重ねることでお互いに理解が深まることもあります。だから初診(1回目の診察)の印象だけで決めるのではなく、複数回(3回程度)、通ってから判断するのが良いでしょう。もちろん初回でとても不快な思いをした場合などは1回で転院をして構いません。
 困るのは、3か所通って、自分に合う病院がないという場合です。しかし、この場合、あなたが病院へ期待しすぎている可能性が高いと思われます。たとえば病院への期待のしすぎでもっとも多いのが「長時間、話を聞いてもらいたい」です。しかし精神科は主に薬をもらうところであって、じっくり話を聞いてもらう(カウンセリング)ための場所ではないことが多いです。
 薬物療法だけでなく、精神療法(話をしたり、話を聞いたりすることで治療する方法)を大切にする医者もいますが、長時間、話を聞きにくい現状があります。私が以前、勤めていた病院では、初診(1回目の診察)の場合には45分の時間枠を取っていましたが、再診(2回目以降の診察)は診察時間枠(6時間)で60人以上の予約が入っていました。他の医療機関の様子も聞いたことがありますが同じような状況でした。病状が安定していて処方のみで時間を要しない患者さんがいるので、その分をためたり自分の休憩時間を削ったりして精神療法を行うことが多いようです。もしくは保険診療外で対応しています。
 短時間の診察を有効なものにするために、事前に自分の伝えたいことや聞きたいことを整理しておきましょう。受診メモを作るのも良いかもしれません。

~受診メモ記入例~

●伝えること
◆いつごろから? どんな時に? どんな症状がある?
 2~3カ月前から寝られなくなったし眠りが浅くすぐに起きてしまう。
 吐き気が強く食欲がない。体重も減った。
 ひとりでいるときに急に不安になったりイライラしたりすることが増えた。
◆困っていること、心配なこと
 寝られなくて困っている。
 不安やイライラを抑えたい。
●相談すること
 寝られるように薬を出してほしい。
 イライラしたり不安が強くなったりした時に落ち着けるようにしてほしい。
●質問すること
 薬を飲んで体調が悪くなったらどうすればいいの?
 薬にはどんな副作用はあるの?
 今度の受診日はいつ?
その他
 特になし

うまく話せそうにない場合には受診メモを渡すのでもよいでしょう。どうしても長時間、じっくりと話を聞いてもらいたい場合は、保険外診療になりますが、別途カウンセリングを受けることをお勧めします。
 また、家族の問題、進路、地域のサービスなど、色々なことを医師に相談しようとする人もいますが、先述のとおり、精神(神経)科医の専門は精神症状に対する薬物治療や入院治療です。それ以外のことを相談しても望む答えが得られないこともあります。
 例えば発達障害の中学生に適した進学先であれば学校の担任や進路担当の先生、自立に向けての通所先であれば病院のケースワーカーや市町村の障害相談担当になります。目的に合わせて相談先を変えましょう。
 適切な役割分担を知ることで、精神(神経)科の先生とうまくお付き合いすることができると、毎日を少し楽に過ごせるようになるかもしれません。

参考文献
  1. 春日武彦 埜崎健治 2013年7月 「職場うつ」からの再生 金剛出版