コラム

「子育て支援」における「父親」のポテンシャル

2021年3月
井元

「子育て支援」というと、「母親」が専門家から助言を受けるというイメージが強いかもしれません。しかし、それだけでは不十分なのです。実は「父親」こそ、「子育て支援」において主役といってもいい役割を担えるポテンシャルを持っているのではないかと思います。

なお、ここで「母親」というのは、子どもに対して二人の養育者を想定したときに、出産した、ないしはその予定がある人を指しています。伝統的には女性であることが多いでしょうが、女性器を持つ男性やその他の性の人も該当しうるでしょう。「母親」という言葉から女性を即座に連想する人も多いでしょうが、ここでは、子どもに対する役割という意味で、「母親」と言っています。同様に、「父親」というのは、「母親」のパートナーで、出産しない側の人を指しています。伝統的には男性が多いでしょうが、女性の場合や他の性の場合もありうるでしょう。

さて、話を戻します。広い意味での「子育て支援」が、妊娠中から始められることは一般的になってきました。「プレパパ、プレママ教室」などといった形で、出産を控えた、両親になろうとしている人たちに、産科の看護師や助産師が助言をしたり、グループワークを行ったりすることが、各所で見られるようになってきたように思います。ここで、「父親」の役割についてもある程度教えられたりするわけです。しかしながら、その後も「父親」が継続的に「子育て支援」を受ける主体であり続けることは、まだまだ多くはないでしょう。

しかし、ここで考えてみていただきたいのですが、「母親」はすでに妊娠期間中から自分の身体的ケアや胎児の安全が最優先になります。それでもまだ、この時期には、出産を巡って、自身の親子関係や心理的テーマについて考える余地もあるかもしれません。ところが、出産前の入院から、出産、そして産後2,3か月の間は、自身の身体的ケアと出産の苦痛に耐えること、そして生まれてきた赤ちゃんの身の安全と身体の成長に、全神経を注がねばなりません。そのうえ、それまでは継続的に「親になること」や「子育て」に関する相談に通っていたとしても、この時期だけはその相談も中断せざるを得ないことがほとんどでしょう。さらに困ったことには、この時期こそ、「母親」、「父親」それぞれの心理的テーマや彼ら自身の未整理の親子関係の問題などが次々と顔を出してくるのです。

具体的に言えば、多くの場合、「母親」と「父親」の両親がお祝いに生まれた赤ちゃんの顔を見に来て、誰に似ているやら、「母親」や「父親」が生まれたときはどうだっただの、いろいろ言うわけです。親子関係にわだかまりがあれば、そこで刺激されるものもあるでしょう。お祝いですから断るわけにもいきません。「母親」や「父親」の都合や体調によっては、赤ちゃんの世話を実家の親や義理の親に手伝ってもらう必要も生じます。こうしたことは、赤ちゃんの命や身の安全が関わっていますから、どうすべきかゆっくり考えている時間もなかったり、断ることは難しかったりします。しかしながら、たとえばここで「母親」が、自分の親との間にわだかまりを抱えたまま、手伝ってもらったりしていると、親になる自信を失ったり、自分の考えで子育てができなかったことが心残りになったりします。当然ながら、この時期に「父親」からのサポートが少なければ、それも将来への禍根になります。

このように、出産から数か月という時期は短期間ですが、とても濃密な時期なので、その後の家族関係、親子関係に与える影響は少なくないのです。それでいて、「母親」は直接的な心理的ケアを受けにくく、心理的なテーマまで考えている余裕も持ちにくいのです。さてここで、この時期にあっても、物事の意味や是非を考える余裕を持ち、自分たち自身の親子関係のテーマと結び付けながら、事を運ぶことのできる人がいます。それが「父親」です。出産を巡る身体的負荷や痛みを受けていないという「父親」のゆとりを、ここで活かさない手はありません。

つまり、「父親」が「子育て支援」を受けることを提案したいのです。「父親」は「母親」が相談に行けない期間も、リアルタイムの家庭状況を相談しにいくことができます。このような心理的ケアに支えられた父親が、家庭において果たしうる役割は枚挙にいとまがありません。「母親」の苦労を聞いてやることはもちろんのこと、「母親」が自信を失っているときに、親としての自信と自覚を持てるように背中を押してやれるのも「父親」です。自分たちの実家と、自分たちと赤ちゃんとで新しくつくった家族との境界線を明確にし、援助はしてもらっても侵入は許さないという微妙な交渉に立てるのも「父親」です。あるいは、「母親」が自分は自分でやる、という態度表明をできるよう、後押しや保証をしてやれるのも「父親」です。さらには、「父親」には、「母親」と赤ちゃんがうまく距離が取れず煮詰まってしまっているときに、彼らの間に少しゆとりを作ってやるような介入をしてあげることもできるように思います。この時期の「親子関係」というと、「母親」と赤ちゃんとの関係が想像されがちですが、「父親」と赤ちゃんとの関係も考えてみる価値のあるおもしろいことがいっぱいあります。

母性神話と呼ばれるものがあります。子育ては「母親」の聖域、というわけです。この考えが「母親」たちを縛ってきたのは明らかでしょう。しかしそれだけでなく、実は子育てに関心を持つ「父親」たちの手足をも、縛ってきたのかもしれません。子育てや家庭に無関心な「父親」は論外として、子育てに関わりたいと思っている「父親」たちの中にも、「そうはいっても、やっぱり子どものことを一番わかるのはお母さんだから、自分が口出しすべきじゃない」と思って、せいぜい自分ができることは家事手伝いなどの後方支援だと思っている人がいるのではないでしょうか。

実は「父親」にこそ、子育てそのものに貢献できることがあるとしたら・・。それが、将来的に楽しみの尽きない家庭生活につながっていくことだとしたら・・。「父親」が受ける「子育て支援」には、それくらいのポテンシャルが秘められているのではないかと思っています。