コラム

カウンセラーが絵本を読んでみた

2021年2月
土井

絵本を読む機会って成長するにつれて徐々になくなりますよね。
 私はとりわけ絵本も本も読まない子どもだったので、児童期に教訓や価値観を教えてもらったのは週刊少年ジャンプでした。。

ただ、そうした中でも読み聞かせてもらった絵本はどこか頭の中に残っているものがあって、私の場合は『いやいやえん』(作:中川李枝子 絵:大村百合子,福音館書店)という作品です。

内容をかいつまんでご紹介しますと、
 いたずらっこの“しげる”は、通っている“ちゅーりっぷほいくえん”で、「いやいや」といってルールを守らず冒険やら悪だくみやらをします。
 保育園をサボっていると、やってきたおおかみに食べられそうになったものの、不潔な“しげる”を嫌がったおおかみに、まず体を洗われたり、遠足で先生に入ってはダメと言われた山に入ったら鬼が出てきてしまったりと、自由勝手にしたことで大変な目にあっていきます。
 そんなにいやなら、ということで最後には“いやいやえん”という約束事が何もない保育園に入ることになりますが、自由なはずなのに“しげる”はなんだか楽しめない。

「ちゅーりっぷほいくえんのほうがずっといいよ」

といって、最後には自分だけでなくみんなと楽しく遊べるために約束事が大切なんだ、という教訓の絵本でした。

そうした教訓を胸に育った私が大人として約束事をちゃんと守れているかということには積極的に目をそらしますが、絵本というのは子どもやそれを読んでいる保護者の方にも、大切なことをとても分かりやすく伝えてくれるものだなと思います。

今回、私が読んでみた絵本は、『いらいらばいばい』(作・絵:つむぱぱ,すずき出版)という絵本です。

この絵本には、“フンガー”という怪獣の子が出てきます。
 火を吐いたり街を壊したりやりたい放題の“フンガー”。

そんな“フンガー”はどうしてあばれるのかな?
 “フンガー”の気持ちの中を現わしてくれます。

火山から、「いらいら」、「むかっ」、「ぷちっ」など怒りが噴火します。
 でも火山の中に入っている源の感情は、「さみしい」、「つらい」、「ふあん」といった苦しかったり不安な感情であることを上手に絵で教えてくれます。

子どもも大人も不安な気持ちが“フンガー”を作り出すのは同じです。
 しかし、怒っている本人や、怒りをぶつけられている相手は“フンガー”の源に目を向けるのは簡単ではありません。

それもそのはずです。
 不安な気持ちになっている人は必死です。
 必死でこの不安をどうにかしたくて“フンガー”と表現しているんですよね。

『いらいらばいばい』では、そうした気持ちを上手く逃がすための“魔法のメソッド”も教えてくれています。

詳しくはこの絵本をご覧いただけたらと思いますが、立ち止まったり自分を安心させるための方法を5つ紹介してくれています。

この方法とともに、

「あれ?さっきまでのいらいらしたきもちはどこにいったんだろう」

と柔らかな目をする“フンガー”の絵を見ると、自分も安心できるかもしれない、と教えてくれます。

ただ、この絵本で私が最も興味深かったことは、“魔法のメソッド”の後でした。

「おこることはわるいことじゃないよ」

というエピソードを入れてくれています。
 “おこるときのルール”を学んだ“フンガー”が最後にみんなに怒る時の3つのルールを教えている様子が描かれているのです。

不安が生じることは子どもから大人まで誰しもあります。
 その結果、怒りが噴火してしまうこともあります。
 そうした感情はあって自然なものではないでしょうか。

『いらいらばいばい』と題されたこの絵本で、最後に伝えてくれていることは、
 “いらいら”に“ばいばい”するのではなく、“いらいら”は悪いことじゃない、ルールを決めて“つきあえる”ものだよ、ということでした。

カウンセリング場面では、大人も子どもも、それぞれの“フンガー”とどう付き合うかを悩んでお見えになる方がたくさんいらっしゃいます。
 カウンセラーの言葉がすべて上手く浸透できるか、というとなかなかそうでない時もあるかもしれません。

「言ってることは分かるけど、それはなかなかできないよ」
 「言葉で説明されても感覚として分からないです」

私たちも伝え方や感じてもらい方を工夫してもなかなか伝わらず、それこそ“フンガー”となる時もあります。

ただ、どんな方法でも“フンガー”と上手く付き合えるかもしれない、とその方が思えた時が、何かを変えられるタイミングなのではないでしょうか。

カウンセリングではあなたの悩みを共に考え、ある時には一緒の気持ちになり、ある時には助言をすることもあります。
そうした中で、絵本という紹介をすることもあるかもしれません。

目でも言葉でも伝えてくれる絵本は、時にいくつもの言葉よりもスッと心に入って、“フンガー”と仲良くなれる方法を教えてくれる、もう一人のカウンセラーになりえるかもしれませんね。

引用の絵本
  1. 中川李枝子 作 大村百合子 絵(1962)
    『いやいやえん』福音館書店
  2. つむぱぱ 作・絵 日本アンガーマネージメント協会 監修(2020)
    『いらいらばいばい』すずき出版