猛暑続きだったあの夏から月日は流れ、街路樹の葉が色づき秋の深まりを感じているうちにクリスマスのイルミネーションをあちらこちらで目にする季節となりました。例年であれば大切な人や仲間とクリスマスや年末年始をどう過ごそうかと、忘年会、新年会等イベントの計画を立てたり、一人で過ごさざるを得ない人もそれなりの自由な生活は手の中にあったのですが、コロナの第三波を迎えている今年の冬は、楽しいイベントや自由な生活はままならないものとなりました。やむを得ないこととはいえ、残念で悲しく感じます。
毎日耳にするコロナの情報も、第二波頃とは異なり、感染者、特に重症者の増加、病床数のひっ迫に関する話が立て続けにあるため、心が落ち着くことはありません。神奈川県も12月2日、集中治療室の数の確保のため緊急性が低い手術を延期する要請を医療機関に行う事態となりました。これも仕方がないこととしても緊急性が低いとみなされ、手術を延期された方々のお気持ちを思うと胸がとてもいたみます。わかっていたつもりでしたが、コロナは一筋縄でいかないやっかいなウイルスであることを改めて痛感しました。
慶応義塾大学医学部精神・神経科学教室専任講師の岸本泰士郎先生のお話しに、「今回のコロナ禍は、台風や地震といった自然災害ではなく、化学(chemical)、生物(biological)、放射性物質(radiological)、核(nuclear)、爆発物(explosive)による災害の頭文字をとったCBRNE(シーバーン)災害に分類される」とありました。ただ、これまでのCBRNE災害とは異なり、「その規模、今後も繰り返しが予想されること、その経過や自粛生活、経済活動抑制の要請など、あらゆる面で特殊かつ複雑である」とも言われています。
また、防衛医科大学校医学教育部精神科学講座の重村淳先生によると、「日本はこれまで数多くCBRNE災害を多く経験している」とのこと。たとえば、1945年の広島・長崎への原子爆弾投下、1995年松本サリン事件、地下鉄サリン事件、2009年新型インフルエンザパンデミック(世界的大流行)、2011年福島第一原子力発電所事故などです。また、「CBRNE災害による人びとに生じる反応は、猛烈な恐怖と不確実性、リスクをどう認識したかに左右されたものに基づくため、メンタルヘルスに限らず、幅広い影響を及ぼす」とのことでした。つまり、健康問題だけでなく、行動面、社会面、経済面など広範囲に影響が出てしまうことを意味しています。そのような大惨事ともいえる状況と現在が同等であるとの話を聞けば、どうしたらいいかをすぐに考えたいところですが、実際は目の前の、日々の生活で精一杯というのが実情のように感じています。
このようなやっかいで得体のしれないウイルスへの感染は、当然ながら、高齢者や基礎疾患をお持ちのリスクが高い方々にとっては、常に命を脅かされていることと同じで、感染への脅威はいかばかりかと思います。リスクが高い方でなくとも、どこにも行けず、日々の予防的な生活を続けることに次第に疲れ、「こんな生活を送るくらいなら死んだ方がましだ」と感じてしまうこともあることといえます。それほど私たちは日々困惑し、心を痛めている状態なのです。
岸本先生は、「人と人との摩擦が、時に災害による直接の影響よりもメンタルヘルスを脅かす原因となることは理解しておいた方がよい」ともおっしゃっています。それはこれまでの日常生活、社会生活の中で皆さんも少なからず体験され、思い当たることが一つや二つあるのではないでしょうか。たとえば、電車やバスの車内や人が集まるところでのマスクをしていない人とのトラブル、スーパーやコンビニ等々のエッセンシャルワーカーの方に対する暴言、医療関係者やそのご家族に対する偏見、それ以外にもオープンになっていないトラブルも多々あることでしょう。それらの当事者、関係者になってしまう場合はもちろん、そういった出来事を日々見聞きすることでのストレスもあるわけで、これらのストレスにさらされ続けると、前述の②にあるように、うつ病(うつ状態や意欲低下も含む)やPTSD、原因不明の体調不良を引き起こすことにもなるのです。
最近、コロナ観(コロナ禍における行動や価値観というそうです)の違いから人間関係を切って(切れて)しまうことが若い世代に多いということを耳にしました。日本医科大学特任教授の海原純子先生は、その背景に「一つは環境、もう一つはコロナ観の格差で、こうした格差感から、これまでの人間関係を継続できない状況に追い込み、悩み、関係を切ってしまうのではないか」と言われています。ちなみに、環境とは、勤務状況、勤務先の意識、家族構成・状況、経済状況、地域をいい、その環境での格差と、コロナ観という医学的知識、いわゆる感染対策に対する知識や意識の差が相まって関係を破綻させてしまう、というお話でした。もちろん、格差はすべての世代にあるものですが、特に若い世代は自分の職業に対する意識・アイデンティティや家族への責任感をこれから構築していく世代で、加えて、コロナに感染しても重症化しないため、他の世代に比べて感染予防に慎重でない方が多いということもあります。そのため職場で感染しないよう厳しく言われていたり、高齢者や基礎疾患をお持ちのリスクの高い方と一緒に住んでいる人にとっては、親しい人や家族であってもマスクの着用の有無、外出や飲み会の有無・開催の頻度などに対するコロナ観の違いがあることに強く困惑し、もう無理!と、関係を切ろうとしてしまう、というのです。もっとも価値観が同じ・近いか違うかは人との関係を維持していく大事な要素ともいえます。マスクを着用するかしないか等の行為は、周囲への感染リスクを軽減する相手への配慮ともいえ、そのような周囲への配慮が出来ない人との関係を無理して続けなければと思い込み、ストレスを感じるくらいなら距離を置く、関係を断つことも選択してもこのコロナ禍にあっていいことなのかもしれません。
こここまで、テレビやネット等で報道されている内容と同じレベルの良くない話ばかりだと思われていらっしゃる方も多いかもしれません。ただ、残念ながらそれが現実でもあります。そのような現実だからこそ、メンタルヘルスを維持し、病気にならない・ひどくさせない、自ら死を選ばないためにどうすればいいかを考え行動することはとても大事です。
以下は対策として岸本先生や海原先生が推奨されているコメントに加筆・追加したものです。よろしければ参考になさってください。
最後に、CBRNE災害というのは、たとえ心身に不調が生じたとしても、多くの場合、時間の経過、あるいは生活が正常化するに従い軽快していくことが多いと言われています。しかし、私たちはすでに入り込んでいる長く暗いトンネルのどの辺にいるのかもわからず、生活の正常化が見えない、あるいは正常化した生活が本当に来るのかも疑問に思ってしまう状況ともいえます。とはいっても、私たちは日々感染予防に留意し、不自由な生活への辛抱を積み重ね、出口の外の世界を信じて歩みを進めていくしかないのです。今日・明日の生活をどうしたらいいかと思われている方も多くいらっしゃる状況下での辛抱はとてつもなくきついことだと思いますが、それでもとにかく生きていくこと・・・ではないでしょうか。
カウンセリングオフィスSARAはカウンセリングを通して皆さんの心を少しでも支えたいと思っています。
※コロナの感染状況、世の中の動きについては、記述している時点でのものであり、掲載された時期によっては状況が異なることもあります。その旨ご容赦いただけますと幸いです。
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