コラム

いつもとは違う春に

2020年5月
西巻
自分の心と体に耳を傾けて・・・

新型コロナウイルスの感染拡大にともない、様々な変化が私たちの生活に生じ始めてからしばらくとなりました。5月に入った現在もなお、刻々と状況は変化し、情報はあふれ、先の見通しを持ちづらい毎日が続いています。このような中、皆さんはどのような思いで過ごしていらっしゃるでしょうか。現在や未来についての不安や恐怖、なかなか好転しない状況や考え方・感じ方が自分とは異なる人に対する苛立ちなど、様々な感情を抱かれたり、気の抜けない緊張状態に疲れを感じたりしているという方は多いのではないでしょうか。

例年、春は様々な変化に適応しようと対応し続けた結果、よく眠れないといった睡眠の質の低下や頭痛や腹痛、気持ちが滅入る、気力が湧いてこないといった心身の不調を感じて学校生活や仕事、日常生活に支障を来たす方が多くいらっしゃいます。いわゆる“5月病”と言われているものです。望ましいことであれ、そうでないことであれ、何らかの変化が伴うことは、私たちにストレスとなり降りかかってきます。春は生活上の変化が生じやすく、健康を守る上では注意を要する季節です。
 そして、さらに今年は皆さんも実感されていることと思いますが、この数カ月間、新型コロナウイルスを取り巻く目まぐるしい変化に私たちは接し、どうにか対応しようと懸命に努め続けているところです。そのため、今年は進学や就職、引っ越しといったライフイベントがない方も、もしかするとどこかのタイミングで心と体がSOSを発するかもしれないな・・と慎重に過ごしていただけると良いかもしれません。また、ライフイベントがあった方(これからある予定の方)は、より慎重にご自身の体調や状態に目を配っていただき、変化を感じたら早めに対処いただけたらと思います(5月病については、2018年4月のコラムを是非ご参照ください)。

ポジティブ心理学

今回は、“人間の生活における幸福やウェルビーイング(=よい生き方、心身ともに健康な生き方)、繁栄について研究する学問”であるポジティブ心理学をご紹介したいと思います。“幸せは、気の持ちようでしょう~”と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、最近では研究が進み、「どうしたら幸せになれるのか?」が科学的に分かってきているそうです。大切なこととはいえ、最近は気持ちが下向きになるような情報が多く耳に入ってきます。少しホッと気持ちを緩めて目を通していただけましたら幸いです。

ポジティブ心理学は、アメリカの心理学者 マーティン・セリグマンによって1998年に提唱された心理学の比較的新しい領域で、『幸せの研究』とも言われています。このポジティブには「今の人生よりももっと充実した人生を送れるようにするため」という意味が込められており、「とにかく明るく前向きに!」というポジティブ・シンキングとは異なります。ポジティブ心理学では、ポジティブもネガティブも両方認め、落ち込んでいる自分や悲しんでいる自分も含めて肯定をします。どちらの感情もバランス良く持っていることが大切ということです。また、セリグマンは、多くの学者たちの研究結果を考慮し、以下のような幸福の公式を導き出しました。

Happiness幸福

ここで注目するのは、私たちが意図的に選択出来る、努力を要する行為を指すV(自発的にコントロールできる要因)が幸福度の40%を占めており、幸福度を操作できる可能性と余地が大いにあるということです。以下に幸福度を上げる手軽なエクササイズをいくつかご紹介いたします。

  • 今日あった「三つの良いこと」を書く

    この方法は、嫌な出来事に対する認知を変える力があるそうです。一日の終わりに「良いこと」「嬉しかったこと」を書き出すと、自分を客観視し、“今日も良いことがあったじゃない!”と自分の変化や進歩に気づき、自分の心にフィードバックすることが出来ます。一日の中で良かったと思える瞬間が見つからないこともありますが、その場合は、つらくなかった瞬間のことを書いてみましょう。“ふつうの日だった”と思えることで幸福度が上がります。

  • 今ここに心を集中する

    今行っていることや呼吸に集中したり、何かに感謝することに集中したり、瞑想をして今ここに集中します。心のスイッチを切り替え、過去の嫌なことや未来の不安を忘れ、今を味わいます。冷静さを取り戻すことの一助になります。

  • 上を向いてみる

    上を向く方が下を向くよりも楽しい気分になるという研究結果があります。脳が楽しい気分なのだと勘違いし、幸せを感じ、呼吸も楽になります。元気で清々しい気持ちの時には自然と上を向いていませんか?幸せな時に無意識にやっていることを意識的にやってみましょう。

いかがでしょうか。幸せについて考えてみたいと思われた時や幸福度を上げたいと思われた時などに参考にしていただけますと幸いです。

引用・参考文献
  1. 前野隆司(2017)「実践ポジティブ心理学」PHP新書
  2. イローナ・ボニウェル(著),成瀬まゆみ(監訳)(2015)「ポジティブ心理学が1冊でわかる本」図書刊行会