コラム

不安な毎日の過ごし方

2020年4月
戸塚

コロナウィルスに関して7都府県に緊急事態宣言が出されました(4月7日現在)。これによって私たちは制限がおかれた中で生活をすることになり、不安や戸惑いがさらに強まった方もあると思います。テレビやネットでは、日ごとに感染者の増加の情報はもとより、志村けんさんの訃報や、複数のスポーツ選手等著名人が感染した話に加えて、マスクの入手困難、アメリカの患者数の増加やイタリアでの医療崩壊、特効薬が出るのか出ないのか等々、いくつもの多様な情報が流され続け、私たちは日々刻刻増大する不安の中で生活しています。買い物や3密(感染拡大を防止するための「密閉空間」「密集場所」「密接場面」)を避けての散歩等は構わないと言われても、目に見えないウィルス感染の脅威による八方ふさがりの状況がストレスとなってじわじわと私たちのこころを侵食してきているように感じます。

このような生命をもおびやかすウィルスに脅され続ける生活は私たちにとって未知のことだけに、先行きが見えない不安やストレスといかにうまくつきあうかが、ウィルスに心身ともに負けない下地を作ることになると考えます。テレビやネットでもさまざまな対処法が発信されており、それなりに情報を収集している方も多いと思いますが、今回、ストレス対処法、いわゆるセルフケアの視点での解説を付け加えさせていただきました。これからの毎日をこれまでの毎日と同じように過ごしていくための一助にしていただけたら幸いです。

規則正しい生活を送りましょう
  • 起床時間を起点に生活リズムを一定にしましょう。

そもそも生物は地球の自転による24時間周期の昼夜変化に同調して、ほぼ1日の周期で体内環境を積極的に変化させる機能を持っています。人間においても体温やホルモン分泌など身体の基本的な機能は約24時間のリズムを示すことがわかっていて、この約24時間周期のリズムを概日リズム(サーカディアンリズム)と呼んでいます。概日リズムは、光や温度変化のない条件で安静を保った状態においても認められ、生物は体内に時計機構をもっていることが明らかで、これを体内時計(生物時計)と呼んでいます。つまり、脳が朝を認識し活動モードに切り替わると、そこを起点に16~17時間後に眠りを誘発するメラトニンというホルモンが作られ、睡眠という「休養モード」に移行します。そして6~7時間の睡眠を経て再び朝を迎えるわけです。そこで新たな1日の始まりを身体に認識させるために朝日を浴びたり、朝食をとることが有効といわれているのです。
 起床時間を起点に生活リズムを一定にすることは心身の健康をつくる下地となります。
 ※体内時計のリセットは、朝日を直接浴びなくとも、曇りの日の照度でも十分とのことです。

  • 朝食は欠かさずに。バランスのよい食事を心がけましょう。

先述したとおり、朝日を浴びることと同様に、朝食をとることで体内時計がリセットされます。概日リズムを一定にしていくために、できるだけ毎朝同じ時間に朝食をとることを心がけましょう。
 バランスのよい食事というのは、基本は、主食・主菜・副菜を揃えるものをいいます。
 ●主食:ご飯、パン、麺類など、主にエネルギー源になる料理。
 ●主菜:肉、魚、卵、大豆製品などを使った、主にタンパク質を多く含む料理。
 ●副菜:野菜、きのこ、海藻などを使った、ビタミン・ミネラル・食物繊維を多く含む料理。
 ※不足している栄養素を補うことを意識して汁物を追加すると、さらに栄養バランスが取れます。

とはいえ、料理を作る側にとってバランスのよい食事とは、毎回献立を考えたり、材料をそろえたり、作ることそのものに時間と労力がかかり、それが新たなストレスを生むこともあります。時に手作りにこだわらず、市販されている総菜やキット、冷凍食品などをうまく組み合わせ、無理のない形でやっていくといいでしょう。

  • 日中の活動を曜日や時間を決め日課にしましょう。

自宅で勉強、仕事をするとなると、学校や職場にいる時と比べて活動量がかなり減ります。セルフケアの視点では、ウォーキングやサイクリングなどの有酸素運動が良い睡眠や免疫力アップに有効と言われていますが、現状では、室内の活動にほぼ限定されるため、知恵を絞らなければなりません。幸いYouTube で室内でできるエクササイズが多数紹介されていますので、視聴が可能な方は参考にしてもいいでしょう。ウォーキングはNGではないので適度に取り入れましょう。
 最近、カウンセリングの中で、これまで手をつけていなかった部屋の掃除や断捨離をしている、という話をよく耳にするようになりました。掃除は気分がすっきりすることもあり、気分転換としてお勧めです。この機会に新しいことにチャレンジしてみるのもいいかもしれません。
 何事も、できるだけ曜日や時間を決めて日課にしていくと、「次何しよう・・・」と迷ったり、「何もせずだらだらしてしまった・・・」といった自責感にさいなまれることも減り、1日をいい気分で締めくくることができます。仕事も家事も、それ以外の活動も、曜日、時間を決めて、日課にしていきましょう。

  • お風呂にゆっくりつかりましょう。

最近、シャワーだけという方が多いように思います。汗を流すことでさっぱりでき、時短で済むのでそれ以外の時間が有効に使えるなどメリットもあります。セルフケアの視点からいうと、38~40度のぬるめのお湯に肩までゆっくりつかって身体を温めることお勧めします。ぬるめの入浴で体が温められると皮膚の毛細血管や皮下の血管が広がり、血流が良くなります。それにより体内の老廃物や疲労物質の除去、コリがほぐれ疲れが取れます。また、内臓の働きを助け、自律神経をコントロールする作用もあります。
 お風呂の水圧で、足にたまった血液が押し戻され、心臓の働きを活発にし、血液の循環を促進します。腹部では横隔膜を押し上げて肺の容量を減少させることで、空気を補うために呼吸の回数が増え心肺機能が高まります。
 また、お風呂につかると体重は浮力で約9分の1程度になります。普段体重を支えている筋肉や関節は、その役割から開放され、緊張からくる脳への刺激が減少します。見えない身体の負担を軽減することにより、心身がリラックスします。
 ただし、長湯や食事・アルコールを摂取してすぐの入浴は禁物です。持病のある方や不調を感じる方は、主治医に相談されたり、入浴方法を工夫するようにしてください。

  • 睡眠もきちんととるよう心がけましょう。

睡眠は一日の活動で疲れた脳と身体を回復させるために必要な活動です。日中(可能な範囲で)しっかり活動し、しっかり眠るようにしていきましょう。安定した睡眠をとる秘訣は、2018年1月のコラム「快眠のすすめ」にありますので、ご参照ください。

コミュニケーションを欠かさずに。

昨年、ある学会のJAXA(宇宙航空研究開発機構)の産業医の講演で、定期的に宇宙ステーションにいる日本人スタッフと面談を行っているという話を聞きました。話の中で、普段英語の会話に困らないスタッフも、産業医と日本語で話ができる時間がスタッフのメンタルに良い形で寄与しているとのことです。産業医との面談は、スタッフにとってほっとして力が抜ける時間なのでしょう。宇宙ステーションでの生活はそもそも常に緊張状態にありますし、任務以外に健康管理、体力づくりを自分でコントロールしなければならないわけですから、地上に見守ってくれる誰かがいる、日本語で話ができることの持つ意味が大きいことはもっともといえるかもしれません。
 このような話を踏まえると、人と連絡を取り合っていくことは、たとえネット上の通信に限られたとしても大事な意味をもつといえます。まして今は地上において会って話をすることさえはばかられる状況ですから、メールやLINE、電話、その他SNS等々を活用してコミュニケーションをはかることは気持ちを安心させ、一緒に乗り越えようと力をもらえたり、逆に悲しみ、不安の中にいる方々に手を差し伸べる機会にもなると思います。
 そもそも不安になるのが当たり前な状況なのですから、必要に応じて電話やネットによる心理相談の利用も一つです。既に相談しているカウンセラーがいらっしゃるなら,電話やネットでカウンセリングを継続できるかどうか確認されるといいでしょう。このような時だからこそ、不安、つらさや苦しさを一人でかかえないことだと思います。
 当オフィスにおいてもでもHPやFacebookでお知らせしているとおり、当面、来談面談以外の方法でのカウンセリングもお受けしています。ご希望の方は担当カウンセラーあるいはHP、電話にてお問い合わせください。

引用・参考文献
  1. 高野知樹(2017) ストレスに強くなる!働く人の心の健康づくり 東京法規出版
  2. 厚生労働省
  3. 日本放送協会
  4. 日本浴用剤工業会