私たちは日々、身近な人間関係によって大なり小なり影響を受けています。自分がどのような人間であるかという感覚は、身近な人間関係の中で養われ、人間関係がうまくいけば自己肯定感(自らの価値や存在意義を肯定できる感情=自分を大切にする気持ち)は高まりますが、人間関係のストレスで息詰まれば自分はダメな人間と思い、そのことでつらく、悲しい気持ちにさいなまれます。そのようなとき、すぐにストレスを減らし、自己肯定感を高めるために考えや行動を変えられればいいですが、現実はそう簡単にいかないことが多いように感じます。
では身近な人間関係から受けたストレスで必要以上に自分をダメな人間と思わないためにはどうしたらいいでしょうか・・・。そのための方法として、①感情を大切にする、②「それでいい」と自分を認めることに焦点をあててお話ししてみたいと思います。
①感情を大切にする。感情は心版の身体感覚。
「怒り」、「不安」、「嫉妬」など、いわゆるネガティブ系の感情をいだくことに抵抗があるという人は多いかもしれません。「人間としてそのような感情を抱くべきでない」、「自分が人間として小さいような気がする」等、いろいろな理由があると思います。しかし、感情はポジティブなものであろうとネガティブなものであろうと意味があるのです。
例えば、熱いものに触れれば「熱い!」と手を引っ込める、画鋲などを踏めば「痛い!」と足を引っ込め、画鋲を取り除き、足に必要な手当てをします。「熱い」、「痛い」という感覚がなければ身体はどれほど危険な状態に陥るでしょうか。これらの感覚は決して心地よいものではなくネガティブ系といえますが、センサーとして身体の安全を守ってくれていることは事実です。
感情についても同じです。感情は心に備わった感覚(心版の身体感覚)と言え、「つらい」、「こわい」、「ムカつく」、「イラつく」、「さみしい」、「うれしい」、「楽しい」・・・と感じることは、自分の心や存在が、今、どういう状態にいるか知らせてくれるものなのです。ですから「不安」を感じることは「安全が確保されていないこと」、「怒り」を感じることは、「自分が困った状態におかれていること」、「嫉妬」を感じることは「自分が他人のうまくいっているところに衝撃を受けていること」で、これらのセンサーが働くから、「自分を守ったり」、「状況を変えていくための気づきを得たり」、「手当てができる」のです。何も感じなければ、「自分の安全や尊厳が侵害されたまま、何も気づかずにただただ傷ついていく」ということになりかねません。
加えて、自分の感情にネガティブ思考という名前をつけてしまうと、感じてはいけない感情のように思い込み、そのように感じていることを認めたくなくなります。もし「怒っているということに気づかなければ、自分は困っていることに目も向かず、誰に助けてもらおうか、どうやって困った状況から脱しようかということに考えを進めていけない」、つまり、「自分にとって困った状況がそのまま放置される」ということになるのです。
②「それでいい」。それって人間として当たり前。
どんなポジティブな人でも何かストレスを感じることにぶつかればネガティブになるものです。大事なのは「それでいい」と思い、自分を認めてあげることです。人はそれぞれ、さまざまな感情を抱えています。生まれ持ったもの(気質、能力、遺伝的背景など)、幼少期の環境、近くにいた人たちの価値観やライフスタイル、今まで体験してきたことなど、自分ではどうしようもなかったことをたくさん持っています。病気であろうとなかろうと、自分の価値を貶(おとし)められて育てられた人が自虐的になるのは当然のこと。だから「それでいい」と思うことでいいのです。でもそれ(「それでいい」と思うこと)って、怠け心につながるのでは?と思う人もあると思います。ただ、人間の変化というのは、事情を考えれば、今の自分を「それでいい」と認め、今後、できればこうなっていきたいとの思いがあって始まるもの。つまり「それでいい」は変化のための最初の一歩でもあるのです。
人は人の中でしか生きられず、人も千差万別ゆえ、人間関係のストレスでネガティブな気持ちになることはなくならないかもしれません。今後、ネガティブな気持ちを感じることがあったなら「自分のセンサーは動いている!」と思った上で、「それが何を知らせているのか」、「どうすれば解決できるのか」を考えていくことに目を向けてみませんか。一人ではよくわからない、「それでいい」となかなか思えないと思われたときは、カウンセリングの中でカウンセラーとともに考えていくことも一つと思います。