コラム

「地域のみんな」と「あなた」と「NPO法人」との出会い

2020年9月
くまがい

さて、今回のコラム執筆の順番になったものの、何を書いてよいやら、しばらく悩んでいました。遅筆なので、そろそろ取り掛からないと、間に合わないなーと、一層焦り始めた頃、ちょうどこんな本に出会いました。石井光太著『本当の貧困の話をしよう』
読んだ時に、これだ!これは、当NPO法人の活動とあわせて何か言えるかも知れない。そんな風に思いました。本には思いも寄らない出会いがあるものです。

この本は”17歳の君に”という文体で非常に読みやすいのですが、書いてある内容はとても深刻です。目をそむけたくなる事に対しても真っ直ぐに眼差しを向ける著者の姿勢を感じます。そして、本のタイトルの通り「今の日本には貧困問題がある」と語ります。ここで言う貧困とは相対的貧困を指します。詳細は省きますが、要するに国民の所得を順番に並べた時(平均ではなく)真ん中の世帯の所得よりも低所得世帯を指し、格差の貧困とも言えます。日本では2016年の調査で国民の7人に1人がこの相対的貧困に当てはまるそうです。

そして、注目したいのは次の言葉です。「今の日本で、貧困は何をうむのだろうか」

貧困が何をうむかって?そのような聞き方をするなんて、いい事じゃない事は予想できますよね。そして、答えは「自己否定感」だと続けます。「劣等感」「あきらめ」「自暴自棄」も同じ意味だと言っています。

どういうことでしょう。日本のように自分が周りの人たちとは違う事を恐れ、周りの人に対しても皆と違うと嫌悪する傾向がある文化では、皆と同じものを持てない、同じ体験ができない事はよくない事ととらえやすいのでしょう。さらにページをめくると、格差の貧困の中にいる子供たちがなかなか貧困から抜け出せない悪循環にいる事について実例を示して解説します。そして、そういった悪循環から抜け出せない生活が当たり前なのだと当の本人たちが思うようになってしまうそうです。「生きている価値を見出せずに、将来についてもどうでもよくなってしまう」事が問題だと言っています。もしかしたら、日々の過ごし方が「自暴自棄」になり、それは将来への「あきらめ」につながる、そんな自分の事を否定的に捉え「劣等感」の塊となるという事に思えてきましたね。

問題解決に焦点を当てるなら、貧困問題は国全体の問題だ!国が何とかしてくれ!という意見はもっともです。確かに国や行政にしかできないことがあります。例えば日本の生活保護の制度は、よその国に比べるとセーフティーネットとしてはかなり機能している方でしょう。もちろん問題がないわけではないでしょうし、完ぺきではありません。でも、そういったセーフティーネットすらない国々では屋根の付いた家で暮らす事もままならず小さい子供の時から物乞いが当たり前になっている地域もあります。こういった生活は相対的貧困というよりかは、絶対的貧困と言えるでしょう。ですが、もし生活保護制度がなかった場合に起きたかもしれない問題を想像することは難しいですが、他国の状況を知る事で、どのような可能性が回避されているか推測する事はできるでしょう。

そのような支援制度がもっと充実するといいと思いますが、国のお金(と言っても皆のお金ですけどね)も人手も際限なく使えるわけではないですよね。それならばと、民間企業に目を向けると、確かに支援活動を行っている企業もありますが、民間企業の筆頭である株式会社の本来的な目的は、会社が利益を出し株主に対して利益を還元する事なので組織の目的が異なります。…あれ、そういえば、貧困が心の問題をも伴っているのであれば、経済的支援を行うだけでは解決しないと著者は言っていませんでしたっけ?そうでしたね。

日本では、阪神淡路大震災での市民、地域の方々の活動を機に、より地域社会の活動を活性化すべく、1998年にNPO法人という組織が法整備されました。この、NPO法人は略語であり、Nonprofit Organization つまり、「非営利団体」と訳せるので、利益を追求しない団体ではないの?と誤解されやすいわけです。ですが、そうではなくて、NPO法人には株式会社のように株主は存在しませんから、株主に利益を還元すべく利益を追求する団体ではないという意味で非営利団体なのです。つまり、NPO法人は株主ではなくて地域社会に対する社会的利益を追求する役割を担っています。

本の話に戻りましょう。「自己否定感」の悪循環を断ち切るきっかけを作ろうとするNPO法人や民間の支援として子供食堂や無料塾が紹介されています。もともとは食事や教育の提供が目的だったのでしょうが、著者は「そうした支援はあくまで表向きのものであり、彼らがもっとも大切にしているのは心の健康だ」と主張しています。どういうことかと言えば、これらの支援は「自己肯定感」を築く取り組みにもなっている。なぜなら、そこに集う子どもたちが食事や教育だけでなく様々な形で一緒に体験をする事、共有する事が自己肯定感を築く事に一役買うのだと述べています。

どうやら、貧困問題は”周囲の世帯に比べて相対的に”お金がなくて生活に困るだけの問題ではなく、その悪循環の中で「自己否定感」がその子の心にべったりと張り付き増殖してその子の心を取り込んでしまう事が問題だと指摘しているようで、心の悪循環が起きるという事が余計に問題を難しくしてしまうのだと言っているようです。

これまでの所、この貧困問題は子供たちについてのお話でした。では、これが大人の場合も同じように考えてよいのでしょうか?「自己肯定感」を築く取り組みは必要だし、鍵になるという点では子供の場合と同様だと思いますが、いささか状況は複雑だと思います。子供より多くの時間、経験を経た分だけ、大人の心はよりいっそう入り組んでいるととらえる必要があるでしょう。

さて、ここから、NPO法人カウンセリングオフィスSARAの活動に話をつなげましょう。当オフィスの方針としてホームページでも「高額ではない良質なカウンセリング」を提供し続けられるよう地域社会の皆様からの寄付や会費をいただくことで成立している活動であると申し上げています。

スタッフの運営体制の違いや、大勢が集うことを目的としているかどうかなど、先の子供食堂や無料塾の場合と当オフィスとの比較は簡単にはできませんが、当オフィスの場合、カウンセリングの構造上、基本的に一対一で50分程度の時間お会いする事を継続的に行える運営が必要になります。また、料金をどう感じるかは、その方の収入、金銭感覚、相談に対する想いなどが複雑に絡んでくると思います。カウンセリングに対して支払われるお金にどんな意味が込められているか?という、また別の心の問題が潜んでいるのですが、話がますますそれてしまうので、それについてはまた別の機会のほうがよさそうです。

繰り返しになりますが、当オフィスの運営が現在の料金で維持されている背景には、皆さまの支援に支えられている所が大きいです。NPO法人とはという説明の中で述べたように、株主ならぬ地域社会の方々からの支援があればこそ維持されている活動である事を強調しておきたいと思います。具体的な支援方法は当ホームページ上の”ご支援のお願い”に詳しくありますが、「寄付での支援」「ふるさと納税による支援」「会員となって会費で支援する」「楽天市場での買い物による募金」「Facebookページ」で”いいね”をクリックする」など様々なものがあります。

まとめに入ります。紹介した本にあるように、日本での貧困は無視できない問題となってきています。その貧困は自己否定感の悪循環をもたらすという心の問題でもあります。その悪循環を改善するべく自己肯定感を築くには孤立しないこと、つまり他者とのポジティブな共有体験が必要であることが語られていました。その取り組みは当オフィスの活動にも当てはまると思います。もちろん、先程少し触れたように、成人の場合、そして抱えている問題の特徴によっては、自己肯定感を築くためにいくつか他にも作業が必要になるかもしれません。

そして、微力ではありますが、心の貧困問題、いえ、貧困かどうかに限らず自己否定感など心の悪循環が改善される方が一人でも増える事は、その方のその後の活動によって地域社会にも還元される可能性を持っていると思います。小さな視点ではその方個人を支える事ですが、大きな視点では地域社会に対する社会的利益につながると考えられます。

心の悪循環が改善された後に、その方と他の誰か、その方と地域との間でどこでどのような出会いが待っているのか、思いもよらない出会いがあるものです。そして、あなたとこのコラムとの出会いによって、当法人の活動に関心を持たれたなら、どうか、ご支援の手を差し伸べていただけるとうれしく思います。