コラム

変わろうとしないことで、変われる?

2026年9月
坂本
「もう少し前向きになりたい」
「もっと気持ちを切り替えられるようになりたい」
「こんな自分を変えたい」
そんなふうに思うことはありませんか。
私もあります(笑)。

私たちは、何か困ったことがあると、状況を何とかしたいので、
「どうしたら変われるだろう」と考えることが多いと思います。

落ち込んだら、元気になろう。
不安になったら、気にしないようにしよう。
自信がなかったら、自信を持とう。

もちろん、努力して良い成績をとる、たくさん練習してスポーツで結果を出すなど、
自分が変わることで状況が改善することもありますよね。

でも、どんなに「変わりたい」と思っても、なかなか変われないこともあります。

「元気にならなくちゃ」と思うほど、元気が出ない。
「気にしないようにしよう」と思うほど、気になってしまう。

そんなときに、ヒントになる面白い考え方があります。
『変容の逆説的な理論』といって、アーノルド・バイサー(Arnold R. Beisser, M.D.)というセラピストが、
1970年に提唱したものです。

人は、自分でない者に頑張って変わろうとする時ではなく、
「今の自分は、今はこうなんだ」と
ありのままの自分をそのまま受け入れたときに、
自然な変化(意義のある整然とした変容)が起こっていく
という考え方です。
人が動きを起こすための堅固な足場を得るには
一か所に立ち止まらなければならないこと、
足場なしには動くことが不可能であるとも言っています。

「変わりたい」と思っているのに、変わろうとしないことが変化につながる
一見すると矛盾しているようですが、私たちの心の動きを考えるうえで、とても興味深い考え方だと思います。

たとえば、「もっと人に優しくしたい」と思っているとき、
「優しくいよう」と頑張れば頑張るほど、「自分は優しくできていない」と
自分を否定することになってしまうことがあります。

でも、優しくなれない自分を追い払わずにそのまま眺めてみたり、そこに居てみると、
「あー、あのとき言われた言葉に傷ついていたんだ」
「睡眠不足で体がしんどかったんだ」
などと、自分の中にあった気持ちや感覚に気づくことがあります。
もっと以前の傷ついた記憶や感覚を思い出すこともあるかもしれません。

そして、それに気づいたとき、いつの間にか少し心が楽になっている。
優しくあろうと無理したわけではないのに、気づけば周囲に優しく接することができていた。
そんな変化が起こることがあります。

実際のカウンセリングでも、
「不安を受け入れるのは嫌だったけれど、『不安があるんだな』と思えたら、なぜか楽になった」
「今の状態は仕方ない。これと一緒に生きていくかと思えたら、少し症状が軽くなった」
といった言葉を聞かせていただくことがあります。

「今の自分はこうなんだ」と充分感じてみること、その状態と一緒にいることで、
自然な変化が起きていく場面に立ち会うたび、私自身も深く心を動かされます。

もちろん、その心境に至るまでには、皆さんそれぞれのプロセスがあります。

受け入れがたいことを、「はい、受け入れましょう」と言われて、すぐに受け入れられるわけではありません。
むしろ、受け入れられないからこそ苦しいですし、そう思うのもとても自然なことです。
だから、「何でも受け入れればいい」と言いたいわけではありません。

受け入れられない自分も含めて、「私は今、こう感じているんだな」と気づき、
自分の中にあるものを否定せずにいると、今まで見えなかったものが、少しずつ見えてくることがあります。

カウンセリングでは、無理に何かを変えようとするのではなく、
「今、何が起きているんだろう」
「本当はどんな気持ちなんだろう」
と、一緒に立ち止まってみることを大切にしています。
話したくないときは、無理に話さなくても大丈夫ですし、
何を話したらいいのかわからないときは、「わからない」と言ってもいいです。
そんなふうに、今の自分のままでいられる時間を一緒に共有しながら、
「このままの自分でも、ここにいて大丈夫だった」という感覚が少しずつ溜まっていくと、
それは変化のための大切な土台になるのではないかと思っています。
               
「変わらなくちゃ」と焦っているとき、
もしかすると、まず必要なのは、変わるためのノウハウではなく、
「今の自分のまま、ここにいてもいい」と思える
安心できる場所なのかもしれません。

だからこそ私自身、相談者の方がそれをじっくり体験できる、
安心・安全な場を提供できたらなと日々思うのです。
ただ、そういった場が作れる人になりたいと頑張って変わろうとすると、そうなれないんですよね・・。
なので、私も今の自分のまま不完全な一人の人として、皆さんと一緒にそこに居られたらなと思っています。
今のあなたのままで、お気軽にお越しください。


 参考文献

  • 変容の逆説的理論 (医学博士Arnold Beisser 宮田はる子・村上尚子訳 岡田法悦監訳)