コラム

アドバイスは役に立たない!?

2020年3月
井元

いささかセンセーショナルなタイトルで、驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。なんらかの困った状況に対するアドバイスを求めて、心理臨床家のもとを訪れるという方は多いでしょうから、アドバイスが役に立たないと言われると、「じゃあ何のために行くのか」と聞きたくなります。

しかしながら、心理臨床家からすると、必ずしも突拍子もないことを言っているわけでもないのです。今回はこのギャップについて考えてみましょう。

理念的なことを言えば、「アドバイスに頼るのではなく、相談者が自分で解決する力を身に着けることが、心理療法の目的である」、ということになります。しかしこれも、わかったような、わからないような話です。なぜなら、この考えはそれ自体妥当かもしれませんが、アドバイスが役に立つかどうかについて何も言っていないからです。「最終的な目的はわかったから、とりあえず今役立つアドバイスをくれませんか」と言いたくなるのが人情というものかもしれません。

そこで、もう少しプラグマティック(実践的)な観点から考えてみましょう。つまり、実際にアドバイスは役に立つのか、ということです。

ある相談者が「子どもがひきこもって10年以上になる」ということで心理臨床家に相談に来たとしましょう。話を聴き、心理臨床家は、家族の会話がほとんどなくなっていて、互いにわかったつもりになっていることが問題だと理解したとします。ここで、心理臨床家は、「もっと思っていることを口に出して、会話によるコミュニケーションを増やしていきましょう」とアドバイスするかもしれません。しかし、このアドバイスは役に立つでしょうか。そうかもしれません。しかし、「それができるならとっくにやっている」、「話しかけても一切返事がないから困っているんだ」と、相談者は思うかもしれません。もしかすると、自力で家族のひきこもりを解決した人に相談した方が、何らかの妙案が出てくるかもしれません・・。

つまり、心理臨床家は、人間の心や、人間関係において起こっていることの背景や意味を理解しようとする専門家ではありますが、問題解決のプロではないのです。ですから、ごく単純に、心理臨床家のアドバイスが問題解決の役に立たないことはありえます。ここで、「理解できているなら、解決策もわかるだろう」と思われるかもしれません。確かに、「原因」が分かれば、解決策もわかるでしょう。しかしながら、心理臨床家が理解しようとしているのは、「原因」ではないのです。人間の心や人間関係のことはあまりに複雑で様々な「原因」が絡んでいるため、そのすべてを詳らかにすることはきわめて困難です。そうではなく、「背景や意味」を理解しようとする、というのは、「もうどうしようもない」ように見えている問題に対して、「まだ関わりようがあるかもしれない」というポテンシャルを見ようとしているのです。

そうはいっても、やはり専門家である以上、心理臨床家が役立つアドバイスを与えられることもあります。
そこで今度は、「アドバイスが有効であるがゆえに、役に立たなくなる」例について考えてみましょう。

さきほどの例で、心理臨床家が「わかったつもりにならず、『私はあなたが~~と感じているんじゃないかと思っているんだけど、実際のところ、あなたはどう思ってるの?』などと、お子さんに自分のことを話してもらう機会を積極的に作りましょう」とアドバイスしたとします。そして相談者はそれを実践したとします。すると、ずっと会話をしていなかった子どもが、今まで親が思ってもいなかったような本音をほのめかすかもしれません。これはつまり、アドバイスが有効に機能したのです。

さて、このあとの展開を想像してみましょう。子どもが今まで言わなかった本音を言い始めるというのは、今までにない変化ですから、この新しい未知の事態に対して、何かしら、レスポンスを返す必要があります。しかし、会話のきっかけを作るのに有効だったさきほどのアドバイスは、この新しい状況ではもう使えません。なぜなら、さきほどのアドバイスは「まずこちらの考えを発信してみる」というものですが、今度は「相手から発信されたメッセージをどう受け取るか」が問われているからです。

このように、有効なアドバイスは、現状を変える力を持つので、そのアドバイスが有効である状況はすぐに過去のものになってしまい、新たな状況では役立たなくなってしまうのです。ここで、「それなら、その後の展開を予測した次の一手までアドバイスしてくれたらいい」と考えるかもしれません。しかし、「次の一手」が有効ならば、またすぐに同じ問題に直面することになるのです。状況は時々刻々と展開していくので、一つのアドバイスが有効なのはほんの一瞬なのです。

さらに言えば、アドバイスによって起こった変化がポジティブなものかどうかわからない場合もあるでしょう。たとえば、さきほどの例で、子どもから出てきた本音が怒りであったとしましょう。心理臨床家としては、今まで抑えられていた感情が表舞台に出てきたということで、これをポジティブな変化と捉えるわけですが、それにはその怒りの「背景や意味」を理解している必要があります。そうでなければ、話しかけたら急に怒りを向けられたというときに、これをポジティブに受け取ることは難しいでしょう。

ここまでくると、「相談者が自分で解決する力を身に着ける」ことが大切な理由が見えてきます。つまりそれは、次々に展開していく状況に対して、リアルタイムで自分なりに考えて対応を工夫できる、ということなのです。

「それなら、どんな状況でも使える汎用性の高いアドバイスをくれたらいいのに」と思われるかもしれません。「Youメッセージよりも、Iメッセージを」などといったアドバイスは、良い例です。しかしちょっと考えてみると、このような抽象度の高いアドバイスを、その場その場で工夫して使いこなせるのだとしたら、それは「アドバイスが役に立った」というよりも、「自分なりに臨機応変に工夫できるようになった」ということではないでしょうか。

話をまとめましょう。心理臨床家はアドバイスをすることもできますし、それが有効なこともあります。しかし、有効なアドバイスは現状を変える力を持つので、すぐに役に立たないものになってしまいます。そこで、状況が変化しても自分なりに考えて次の工夫ができるようになることが大切だと考えるのです。心理臨床家のものの考え方をいくらかご理解いただけたら幸いです。