コラム

眠れない夜に

2015年7月4日
児島

眠れない夜、あなたはどのようにお過ごしでしょうか?

羊の数を数えてみるのでしょうか。眼を閉じて、あれやこれやととりとめもなく考え事をするのでしょうか。気を紛らわせるためにネットサーフィンするのでしょうか。それともお酒を飲んで意識も記憶も、遥か彼方に押しやってしまうのでしょうか。

私たちはどうして眠れなくなるのでしょう。生物学的なことは偉い先生におまかせすることにして、私はその理由の一つを赤ちゃんに教えてもらおうと思います。赤ちゃんは夜泣きをします。お腹も空いてない、のども乾いてない、トイレも済ませている、気温も快適なはずなのに、それでも泣くことがあるのです。

『おやすみなさいおつきさま』という絵本があります。小さいうさぎの子がベッドに横になっています。近くには乳母でしょうか、おばあさんが付添って編み物をしています。そしてうさぎの子は部屋のいろいろなものにおやすみと言います。おやすみ、こねこさん。おやすみ、よぞらさん。おやすみ、おばあさん…。だんだんとあたりは暗くなり、さっきまでそこにいたはずのおばあさんはいなくなってしまいました。うさぎの子は眠ったようです。しかしこの絵本全体を通して流れる、静かで穏やかで、しかし寂しい雰囲気は何でしょうか。これこそが私たちが眠れない理由の一つではないかと私は思うのです。

心理学と美術の研究者エレン・ハンドラー・スピッツはこの絵本を引用してこのように言います。

「おやすみの時間は両親が積極的に子供から離れようとする時であり、時と場合によって子どもはこの習慣的な別れに対し、見捨てられたように感じることもある。」

「小さいうさぎは自分の部屋にある大好きなものを眺める力がだんだん弱まっていくにもかかわらず、それらが無傷なまま生き残り、同様に自分や自分の世話をしてくれる人の愛情もまた生き残るということを期待できる、という心安らぐ理解をその絵本は伝えている。」

たとえ視界から消えてしまったとしても、それが永遠に消えてしまうわけではないと理解すること、ずっと一緒にいなくても誰かの存在や愛を信じることができること、これを心理学では「対象の永続性」と言います。赤ちゃんはいくつもの夜を泣いたり怒ったりしながら過ごし、徐々に、目を閉じてもお母さんは消えてしまわないこと、ここにいなくても自分を愛してくれていることを理解していきます。

夜、暗闇の中で目を閉じる時、なんだか寂しく物悲しく、寄る辺なく感じることがあれば、それはもしかすると、心の中で赤ちゃんのあなたが夜泣きをしているのかもしれません。私たちは生きている限り、乗り越えるのが難しかった感情を何度も繰り返し、味わい続けます。お母さんの腕に抱かれながら赤ちゃんの心の中に、目には見えないものを信じる力が少しずつ育つように、私たち大人もまた「誰か」の手を借りながら少しずつ成長していくしかないのでしょう。

引用・参考文献
  1. Joan Raphael-Leff(2005):PARENT-INFANT PSYCHODYNAMICS. 木部則雄(監訳)(2011):母子臨床の精神力動 精神分析・発達心理学から子育て支援へ 岩崎学術出版社
  2. Brown, Margaret wise and Clement Hurd(1947)Goodnight Moon. 瀬田貞二(訳)(1979):おやすみなさい おつきさま. 評論社