コラム

職場のパワーハラスメント

2019年8月
倉林

昨年のアメフト部のパワハラ問題、コーチから体操選手への暴力、国会議員の秘書への暴言、最近では芸能事務所社長のタレントへの脅しともとれる発言など、『パワーハラスメント』という言葉をニュースで見ない日がないのではと思うほど多くなっているように感じます。『ハラスメント』とは、元々苦しめること、悩ませること、嫌がらせという意味を持ちます。『パワーハラスメント』という和製英語は、広く認識されるようになりましたが、これまで法規制はありませんでした。
令和元年5月29日、『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)』の改定により、パワーハラスメントの防止が企業に義務づけられる法制化がなされたのをご存じでしょうか。

パワーハラスメントとは、同じ職場で働くものに対して、職場上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為のことを言います。

パワーハラスメントの法律上の要件として、次の3要素を満たすものが適当となっています。

  • ①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
  • ②業務の適正な範囲を超えて行われること
  • ③身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、また職業環境を害すること
 

また、職場のパワーハラスメントの6つの行為類型としては、次の通り整理されていて、上の3要素を満たすと職場のパワーハラスメントに該当することになります。

  1. 暴行・障害(身体的な攻撃)
    例:上司が部下に対して足蹴りや殴打をする。
  2. 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
    例:「バカ」「死ね」「いてもいなくても同じ」「家族がどうなってもいいのか」
  3. 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
    例:上司が意に沿わない部下に対し、仕事を外して、別室に隔離したり、自宅で研修させたりする。
  4. 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
    例:上司が部下に、過酷な環境下で勤務に直接関係ない作業を命じる。
  5. 能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
    例:上司が部下を辞めさせるために、能力に見合わない簡易な業務を命じる。
  6. 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
    例:社員の家族についてヒアリングしたり、私的な写真を撮影したりする。

これを踏まえて、令和2年4月1日より、企業は雇用管理上の措置を講じなくてはならなくなりました。パワーハラスメント防止の研修を行ったり、パワーハラスメントの禁止と違反した場合の懲戒処分を就業規則に定めたり、また、相談窓口を設置するなどが考えられます。企業は、労働契約上の義務として安全配慮義務を負っていますので、パワーハラスメントが原因で精神的な健康が損なわれた時には、損害賠償が請求される可能性がでてくるのです。企業には、被害者も加害者も出さないようにパワーハラスメントに対する意識を高める努力が必要になります。今後、法整備が進み、世間的にもパワーハラスメントを許さないという風潮がますます高まることが期待されます。

SARAにも、職場でパワハラをされて叱られるのは自分が悪いから仕方ないと耐えてきたが気分が落ち込んで会社に行けなくなったという人や、パワハラ上司は異動して顔を合わせることはなくなったのに恐怖心が消えずに上司に話しかけようとすると動悸がしてうまく話せないという人など、パワーハラスメントで傷つけられて苦しんでいる人が相談にいらっしゃいます。会社や学校に行って心の健康を害されてしまうなんていうことは、絶対にあってはならないことだと思います。

では、自分がパワハラ被害にあっているのではないかと思ったらどうしたらよいでしょう。「悪いのは私」「あの上司とうまくやっている人がいるのだから自分に問題がある」「私に能力がないから叱られる」という心理状態になっていないでしょうか。
 「自分は被害者、相手が悪い」と気づくことが大切です。相手もその上の上司に強く言われて大変そうと、相手の立場や状況を理解しようとする気持ちは捨てて下さい。相手が大変だからと言って、あなたの心を傷つける言動をしてもいいということにはなりません。自分に能力がないから叱られるのだと、自分を卑下する気持ちも捨てて下さい。部下の能力を最大限引き出し、適切な指導を行って業務を遂行することが上司の仕事だからです。
 そして、会社の人事総務、産業医、メンタルヘルス窓口、コンプライアンス窓口などに相談する。そのような相談窓口が職場内にない、あるいは、職場内で相談するのに不安があるのであれば、都道府県労働局にある総合労働相談コーナーや外部の相談機関、SARAのような私設相談室を利用するのもひとつでしょう。

パワハラというストレスは、抑うつ、不安などの気分の変化を引き起こし、不眠や意欲減退、その他の身体症状が発症する原因になることもあります。過剰な恐怖心や繰り返し脅威を感じるなど自分の中で折り合いをつけることができないストレスを体験すると、トラウマになってしまう場合もあると考えられます。パワハラによる適応障害で休職し、服薬・休養して、1年後に配属先を変更して復職しても、パワハラされた記憶が被害者を苦しめるのです。情動的な記憶と身体的な記憶、そして、超自我的な考え(社会規範、道徳心、良心の呵責、罪悪感)が全て統合されずにバラバラに残ってしまうので、過去の出来事なのに過去の記憶にならないのです。
 パワハラの要件を満たさなくても、モラルハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントなど他のハラスメント(嫌がらせや虐め)によるストレスにさらされているかもしれません。

いつもの自分と調子が違うと感じたら、我慢し過ぎないようにして下さい。相手はパワハラ発言だとは全く思っていないため、エスカレートするかもしれません。第三者に相談して、客観的な意見を聞いてみる。そして、自分らしく生きられるために、誰のことよりも自分を優先して考えることが大切でしょう。

引用・参考文献
  1. 村岡浩(2019)2019年5月成立のパワハラ対策法の対応!事例で学ぶパワハラ防止・対応の実務解説とQ&A 労働新聞社
  2. 岡本浩一・角藤比呂志(2017)新時代のやさしいトラウマ治療―NPL,マインドフルネス・トレーニング、EFT、EMDR、動作法への招待 春風社
  3. 香山リカ(2007)知らずに他人を傷つける人たち モラル・ハラスメントという「大人のいじめ」 KKベストセラーズ